身近な相続・遺言相談室 第1回「相続問題はその家族の生き方を反映する」
よく「相続」は「争族」と言われますが、身近な例をあげます。
ある男性が亡くなり、その妻と長女が長男を相手方とし、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てた事例です。
この長男は数十年行方不明でしたが、長男抜きに相続手続きは進まないため、私が住民票をたどって探し出し、父親が死去した話をしたところ、長男の自分が実家を継ぐのが当然だと土地建物の相続を主張してきたのです。定年退職した途端わがまま放題で手がつけられなくなり、亡くなる迄の10年位は要介護状態だった男性を最後まで面倒見続けた妻と長女は、家裁に調停を申し立て、長男に要求の何割かを現金で支払うことで決着しましたが、そのあと妻は近所中に長男を泥棒呼ばわりし、二度と実家に出入りできなくしてしまいました。
また他にも両親が続けて亡くなり、相続人は長女と長男の二人だけなのに顔を合わせれば罵り合うだけで、私が間に入らないと話が進まず、二人の配偶者も絡んで泥沼になったこともあります。
これらの実例で言えることは、相続は法律に則って遺産を分ければ済むという問題ではなく、ある人が亡くなることによってその家族や親族がどのような生き方をしてきたのか、つまりお互いに思いやって生きてきたのか、好き勝手にやってきたのかというそれまでの家族や親族のあり方が問われる出来事だということです。法律の条文は相続問題解決への参考書であっても回答書ではありません。相続問題の回答は相続人達で見つけなければならないのです。そして相続問題は生前からすでに始まっているとも言えるのです
身近な相続・遺言相談室 代表相続法務指導員 川島幸雄